わたしはこれまで一度として運命をあてにしたことはありません。
たとえ運命が友好状態を保とうとするような様子をみせた時にでも、です。
彼が最大の親切さからわたしに積み上げてくれたもの、財産や、官職や、勢力やを、わたしは、運命がわたしを興奮させないでいつでも取り戻しに来られる場所に置いておきました。
わたしはこれらのものとわたしのあいだに十分な間隔を保ってきたのです。
それゆえ運命はいまそれをわたしから取り戻しただけであって、嫌がるのを無理に奪っていったわけではないのです。
悪しき運命に押し潰されないのは、良い運命に騙されなかった者だけです。
「ヘルヴィアへの慰め」5-4
(p183-184)
『ローマの哲人 セネカの言葉』