たしかにそのとおりで、世間の人はとかく、宝くじに当たるような外から与えられた幸運を幸福と同一視しがちなものだ。
が、すでに見て来たように、偶然(運命)が与えた幸運なぞはすぐにまた運命に取上げられるもので、断じて頼りにすべきでないとするのが、ストア派哲学を学ぶセネカの考えである。
幸福もまた心の問題である以上、自分の権能下にあるもの、すなわち理性を用いて掴まねばならぬ。
多数者に従うのでは、初めからそれを、みずからの力で考え判断するという一番の大事を放棄してしまうことになる。
だからセネカが最も警めるのは、それが多数者の賛成することだからという理由で、大衆の意見や好みに従うことだ。(p190)
『ローマの哲人 セネカの言葉』